背景
かつて、カンボジアでは、寺院はクメール文化の伝統継承や自然保護活動を、宗教的実践として伝統的に行い、重要な役割を担ってきました。文化・伝統的活動も世代を超えて伝えられ、各寺院は独自の演奏家や舞踊団、舞踊ステージなどを所有していました。熱心な仏教徒として戒律を守り、また寺院の教えを学び実践していました。しかし、長い内戦やポルポト時代の虐殺や破壊により、多くの寺院や経文、僧侶、文化財が失われ、寺院におけるコミュニティーへの教育的機能は低下しました。
現在、宗教的実践を通じてコミュニティーの結束を高めるために必要な運営管理能力について、深い知識を持ち合わせている寺院が少ない状態です。そのため、寺院は文化保全や自然保護活動に果たしてきた伝統的、社会的役割を担いきれなくなってきています。
また、内戦後の急激な経済発展や都市化に伴い、独自の文化や仏教的倫理観を学ぶ機会が減少し、若者のモラル低下(薬物使用、暴力、風紀の乱れなど)が社会問題となっています。伝統文化への関心が薄れることは、継承・保存だけの問題でなく、クメールとしてのアイデンティティーの喪失にもつながります。そして、環境保全に対する意識の低さから、内戦後の不法伐採・輸出に加え、自然保護の大切さを理解していない人々による土地や水田の売却により森林が減少し続けています。そのためクメール文化や社会の復興、そして自然保護には、カンボジアの精神文化や伝統的社会基盤となっている仏教が重要な役割を果たしていくと期待されています。
プロジェクトの内容
寺院と自然保護活動、寺院と伝統文化、寺院とコミュニティーというそれぞれの密接な関係性の上に成り立っている寺院の社会的役割を強化するため、伝統文化事業課では以下の3つの活動を立正佼成会一食平和基金の支援により実施している。

1.仏教寺院の人材育成
内戦の傷跡は寺院の運営管理体制にも残る。多くの僧侶および経文が失われたことにより、仏教における知識だけでなく、寺院管理(文化遺産管理も含め)について指導を受ける機会がなく、寺院のコミュニティーにおける教育機能、運営管理能力の欠如が問題となっていた。
伝統文化事業課は、日常生活における仏陀の教えの実践から寺院管理までをカバーする内容のセミナーや研修会を開催し、寺院関係者の能力強化に努めてきた。州の宗教局長や州管区僧長の強い要請を受け、対象州・郡管区僧長や宗教局スタッフを対象に、寺院の運営管理能力強化をめざし、より発展した講義内容のセミナーや研修会を開催している。
2.仏教寺院を通しての伝統文化保存
寺院はかつて、文化遺産を管理し、文化的なリソースを蓄えた学びの場所であった。しかし、内戦により、現在は伝統文化の継承という寺院の社会的役割が低下し、機能が失われている。クメール伝統文化の保存を進めることは、悲劇の歴史の中でカンボジア人が無くしたものを再構築し、心を養い真の平和を促進することにつながる。
伝統文化事業課は、伝統的に寺院が伝統文化保全活動を行ってきたことに着目し、人材育成を行う州・郡管区僧長、寺委員会、宗教局スタッフを対象としてセミナーやワークショップを開催。伝統文化の継承に対して果たしてきた寺院の社会的役割を再確認し、強化を図っている。
3.仏教寺院を通しての自然保護活動
内戦により、森林は敵が隠れる場所となるので伐採され、内戦後も国内情勢の混乱の中、大規模な不法伐採や輸出が行われ、森林破壊が深刻な問題となっている。森林破壊により、森林の持続可能な利用がされなくなり、森林の保水機能も失われ、人々の生活に影響を及ぼし始めている。
対象地域としているベトナムと国境を接している南部のスバイリエン州は、森林破壊の最も深刻な州のひとつである。また、中部のコンポントム州(サンボープレイクック遺跡地区)では、内戦により遺跡と森林が破壊され、木々は銃弾などで傷つき、放っていたら廃れるという状態である。
伝統文化事業課は、伝統的に寺院が宗教的実践として自然保護活動を行ってきたことに着目し、行政と協力し、宗教関係者、コミュニティー委員会を対象としたワークショップを開催している。
また、自然保護活動の実践として、寺院を中心にしたコミュニティーで植林を行う。植林活動を通じ、コミュニティーの結束を高めることができ、より持続可能な活動としていくことが期待される。